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東京地方裁判所 平成7年(特わ)3159号 判決 1996年3月15日

本籍

沖縄県沖縄市字古謝一三〇番地の一

住居

東京都北区東十条四丁目七番一八号

会社役員

小濱守郎

昭和二四年九月三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人中村幾一各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都北区東十条四丁目七番一八号東優信販ビルに居住し、東京都北区東十条四丁目二番一二号東亜会館地下一階において「レッドシューズ」の名称で、平成三年一〇月一六日から、同都豊島区北大塚二丁目一四番一号鈴矢ビル地下一階において「ブルースカイ」の名称でいわゆるピンクサロンを経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右各店舗の客数等を記載した日計表を廃棄してその収支を明らかにする帳簿を作成せず、かつ、自己の内妻である従業員が右「レッドシューズ」の経営者であるからのように装って右従業員名義で所得税の確定申告を行うなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年分の実際総所得金額が四六二九万三四三七円であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成三年三月一五日までに、東京都北区王子三丁目二二番一五号所轄王子税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、平成二年分の所得税額一九〇七万一五〇〇円(別紙ほ脱税額計算書1参照)を免れ

第二  平成三年分の実際総所得金額が四一四一万七二一三円であったにもかかわらず、平成四年二月二〇日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が二九六万八二五〇円で、これに対する所得税額が二五万九八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第一二三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一六五九万八〇〇〇円と右申告税額との差額一六三三万八二〇〇円(別紙ほ脱税額計算書2参照)を免れ

第三  平成四年分の実際総所得金額が七六八三万五二三円であったにもかかわらず、平成五年三月一〇日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が七九三万円で、これに対する所得税額が一三四万四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第一二三号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三四二四万七五〇〇円と右申告税額との差額三二九〇万七一〇〇円(別紙ほ脱税額計算書3参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(五通)

一  大蔵事務官作成の普通預金調査書、定期預金調査書、保証金調査書、設備造作調査書、事業主貸勘定調査書、事業主借勘定調査書、所得控除調査書

一  寺嶋昌子の検察官に対する供述調書

判示第一、第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の現金調査書、貸付金調査書、不動産所得調査書

判示第一の事実につき

一  検察事務官作成の捜査報告書(王子税務署所在地関係)

判示第二、第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の申告所得金額調査書、領置てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書(豊島税務署所在地関係)

一  豊島税務署長作成の証拠品提出書

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の預り保証金調査書、譲渡所得特別控除額調査書、給与所得調査書、総合譲渡所得調査書

一  押収してある平成三年分の所得税の確定申告書一綴(平成八年押第一二三号の1)、同平成三年分収支内訳書一袋(同号の2)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の車両調査書

一  押収してある平成四年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第一二三号の3)、同平成四年分の所得税青色申告決算書(同号の4)

(適用法令)

〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕

罰条 判示各所為につき、いずれも所得税法二三八条一項(ただし判示第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)

刑種の選択 いずれも、懲役刑と罰金刑を併科

労役場の留置 刑法一八条

併合罪の処理 懲役刑につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき、刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)

刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)

訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の事情)

本件は、風俗営業の店を経営していた被告人が、老後資金蓄財、あるいは、風俗営業から堅実な業種への転換などを企図して、その実際所得金額の一部につき、右風俗営業一店の営業許可名義人で被告人の内妻に同人名義で所得税確定申告書を提出させたり、自ら売上金等を除外するなどして、無申告あるいは、過少申告により実際総所得金額を少なくみせかけ、合計約六八三一万円の所得税を脱税したという事案であり、そのほ脱率は通算約九七・七パーセントに達している。

右犯行の動機、脱税額、ほ脱率の高さに、帳簿をすべて廃棄して現金及び預金を隠匿していた犯行態様に照らすと、犯情は悪質で、同種業界で納税意識が低いことや、被告人が納税知識に乏しかったことが推測される事情を勘案しても、同種犯罪防止のための一般予防の見地からして、その刑事責任を軽く考えることはできないというべきである。

さらに、被告人には、略式による罰金等の前科三犯、昭和五八年に強盗罪、窃盗罪により懲役三年(四年間執行猶予・保護観察付)の各前科がありながら、重ねて本件各犯行に及んだものであり、いずれも古く、かつ、同種前科ではなく、被告人にもそれなりの言い分のあった事件の事情が窺えるとはいえ、被告人の規範意識の乏しさを示すものとして憂慮されるところである。

しかし、被告人は、右執行猶予の判決後は、刻苦勉励して独力で右飲食店を独立開業し、身内に金銭的援助をしているなど本件犯行以外は、一応大過なく更生の道を歩んでいたこと、本件犯行発覚後は、本件の本税、延滞税及び重加算税のすべてを完納し、会社組織化して、税理士の指導の下で正しく納税に努めているほか、脱税したお金などで預金通帳の数字が増えることのみを主たる楽しみとしていた従来の自己の生活態度を深く反省し、今後は内妻とも正式に結婚して、二人でラーメン店など地道な仕事をしたい旨その心情を吐露しているなど改悛の情も顕著である。

また、内妻も当法定で被告人と入籍し、しっかりと監督したいと誓っている。

これら、被告人のために有利に斟酌すべき一切の事情を総合考慮して、主文の各刑を相当と思料した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一〇月及び罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 大谷吉史)

別紙

ほ脱税額計算書1

<省略>

ほ脱税額計算書2

<省略>

ほ脱税額計算書3

<省略>

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